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無垢なる接吻を
[ 接吻 ]

歌詞全文

最後の一文で一人称が「僕」だと分かる。
歌い手は男性で、禁断の恋。
「僕」が誘惑して迷える相手を墜としたにもかかわらず、物理的にも精神的にも受け身であることが窺える。
…ここまで条件の揃った歌も珍しい。
ここは素直に「同性愛」をテーマにした歌として頂戴したいと思います。
(私の目が曇っているせいではないと願いたい)

まとわりつく重低音と切なる魂の叫び
絡み合う思惑と駆け引き
混沌と調和
様々な色が見えるこの曲はあからさまな誘い文句から始まる

 接吻を交わそう 偽りを外し

偽りを「外す」という表現。
この一言で「偽り」で固められた日常が窺える。
交わそう、が誘い文句なら当然続く言葉も同様なはずで
「嘘は止めましょう。自分に正直になって接吻を交わしましょう」
(貴方は本当は僕を好きなはず)と相手を誘っている。

 背徳の味に 魅せられた瞳

瞳は自分では見えないので、ここは相手のことでしょう。
道ならざる相手との禁断の関係。
タブーを犯す愉しみに溺れてゆく。
 And you're buruing with desire give in to me
 And I feel it,your desire show me now

誘惑、そして陥落…、燃え上がる情熱を、見せてみて。
閉塞感すら感じる濃密な空気。

 真実へ手を伸ばせ迷わず  誘惑の果実へと

まだ迷いを捨てきれない相手に、さらにもう一押し。
真実に手を伸ばし、掴んでみたらそれは誘惑の果実、という矛盾。
駆け引きの応酬である。

どんな悪魔のなせる技か。
しかしここで一気に空間が開ける。
曲調も歌声もガラリと変わり、
同一人物か?と疑いたくなるほど切ない想いが綴られる。

 世界は溶け合う色 夢の先に導いて
 煌めく炎は今その胸へと抱かれていく

あれだけドロドロと重低音で地べたを這わせておいて、いきなり「世界は」とくる。
まるで遊体離脱したかのような開放感と浮遊感。
小悪魔の正体がこれなのか?
悲しくなるほど無垢なる魂。
「夢の世界」ではなく「夢の先」に連れて行って欲しいと願う。
つまりは今まさに夢の中にいるから、その先へ、という事である。
二人の逢瀬はまるで夢見るようで、けれど夢のように脆く儚い。
この夢から覚める前に、そして覚めるまで、その胸へ抱かれながら思うのは

 ねぇ 君の愛が欲しい

その行為に愛情が無いこと、愛されてはいないことを百も承知なのだ。
自らも、そう振る舞っている。
しかし本当は求めるべくもない相手に愛を求めていた。
言葉に出来ない独白。空しい祈り。
しかしいつしか願いが叶う時が来る。

 奏で合う魂の歌声 鼓動が共鳴する

一方通行ではない。響き合う感覚。

 世界は溶け合う色 夢の先に導いて

先程と全く同じ歌詞の繰り返しにも関わらず「溶け合う」の意味合いが微妙に違う。
前回が、様々な色、欲望、思惑、それらが混ざり合う混沌とした世界を示すなら
今回は前後の歌詞からも「調和」の意味合いが取れる。
二人がひとつに溶け合う世界である。

 貴方が心を今 叩いている
「心を叩く」という表現に胸を突かれる。
ようやく、はじめて、相手が自分の心を求めている。
ずっと願っていたはずなのに、叶うはずがないとどこかで諦めていたのだ。
だからこそ「叩く」という表現が来る。
開かれたドアなら叩く必要は無い。
愛が欲しい、と言いながら心は閉ざしていた。
その心を、今、貴方が、叩いている。
真実の愛が手に入る、その瞬間、彼の想いは

 …幻でいい

幻でいいはずがない。
「偽りを外しましょう」と誘っていた彼が
「その愛が嘘でも構わない」と、その罠に自ら絡め取られる悲しさ。

 その胸へと抱かれていく
 もう 僕は二度と帰らない

彼にとっての「夢の先」へ辿り着いた、という事でしょう。
それはたった一言の「言葉」かもしれないし「約束」かもしれない。
不安を振り払うように、その胸に飛び込み、もう二度と離れない、と誓う。
恋に墜ちた者の愚かさと、悲しいまでの純粋さに、しばし言葉を失う。

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